初診までの経過
50代女性。
もともと、疲れると顔に赤い湿疹が出ていた。
1年前、家族の看病で、その湿疹が治らなくなる。
9ヶ月前、ヘルペスウイルスの増殖を抑える薬であるアシクロビルを処方され、それ以降、発疹は出なくなった。現在も使用している。
発疹と入れ替わるように、カゼを引くようになった。
9カ月前から、カゼをよく引く。
一度引くと、1カ月ほど動けなくなる。
カゼがましになっても、体がだるくて家事がこなせない。
こんな状態が、昨年5月、10月、1月と続いた。
1月のがましになったと思ったら、2月に入ってまたカゼを引く (初診日の5日前) 。
熱は今はないが、しんどくて何も手につかず、ずっと寝ている。
寒くて仕方がない。
何とかしてほしいと来院。
診察
脈診
男脈である。疲れが取れにくい状態。四霊 (滑肉門・天枢・大巨) の可能性。
やや無力。正気の弱りがある。
寸位から尺位に向かう脈の流れがある。表証があることを示す。
寸位外→尺位内の方向に脈の流れがある。表寒があることを示す。
この脈が中位・浮位にある。正気が寒邪に負けていることを示す。
脈は全く浮いていない。しかし外邪に侵されており、表寒証 (カゼ) である。表寒証をとれば、体はある程度楽になるはずだ。正気が寒邪にまけて、寒邪が生命の深い部分まで侵入しており、直接寒邪を取ることはできない。
正気を増して脈を浮かす。
寒邪を浮かして浅い部分に追い詰め、そのうえで寒邪を取る。
腹診
臍を中心とした空間は、右下。
右大巨を探ると生きた反応。
舌診
淡白舌・薄白苔・潤。やや無力。
寒邪により、正気が圧迫されている姿である。
正気が伸びないので、しんどくて動けない。
治療と経過
初診
右大巨に5番鍼の横刺。3分置鍼。
つづいて腹部打診術、右脾募に処置。
表証があるので、今日の入浴は禁止する。
2診目 (2日後)
しんどさ、寒さ、熱っぽさ、すべて10→5。
まだ表寒がある。今日の入浴はまだよくない。
関元に4番鍼の横刺。3分置鍼。
3診目 (3日後)
動けるようになった。
表寒なし。今日の入浴OK。
舌が明るくなる。
左天枢に5番鍼の横刺。3分置鍼。
4診目 (2日後)
コーラスの練習を再開したい!
舌が赤くなる。
これは表寒が取れ、もともとあった裏熱が主になったことを示す。
〇
4診目以降、疏肝理気・清熱解毒を中心に治療を続ける。たまに脈で表寒が見受けられたが、そのたびに治療で取り除き、体調は良好である。
4カ月経過現在で、カゼは一度も引いていない。
忙しい日常をこなしながら、趣味のコーラスを続けることができている。
顔の発疹は出ていない。
考察
顔の発疹は、ストレスから熱化した肝火と、ストレスによる過食が原因の脾虚と、過労と年齢からくる腎虚から起こっている。
カゼを引きやすくなったのは、この時期、何らかの「脾虚をひどくする要因」があったからだ。ひどくなった脾虚が腎虚を悪化させ、防御作用が弱くなった。脾虚と腎虚の2つは、カゼをひく直接原因となる。また、肝火 (ストレス) はこれら2つの根本原因となるばかりか、脾虚に乗じてより活発となる。
このように、裏で糸を引いていた病気の黒幕は衰えず、むしろ勢いづいて、カゼを引きやすくなり、動くこともできなくなった。症状を抑えることのみに終始し、原因 (生活習慣や価値観の狂いから生じる疲労) に目を向けない場合に、よく見られる病態の変遷である。
「脾虚をひどくする要因」とは何か。それをよく考え、本症例では初診の段階でこれをすべて除去した。