肩髃

肩髃は肩関節にあるツボです。

まず、骨の構造を理解するところから始める必要があります。

解剖学的に位置を知る

ザックリ言えば肩の関節は、鎖骨と上腕骨からできており、そこに肩甲骨が挟まった形です。具体的に言えば、胸鎖関節・肩鎖関節・肩関節 (肩甲上腕関節) という3つの関節が動くことによって、腕を自由な方向に動かすことができます。

肩関節 (肩甲上腕関節) は、肩甲骨外端部と上腕骨頭によって構成されます。

肩甲骨外端部の関節窩は、肩峰や烏口突起に囲まれるようにして大きな凹部を構成します。そこに上腕骨がはまり込みます。

肩髃の取穴は「肩峰」の位置が決め手になります。なので、肩峰が確定できないと、正規の穴処の場所が確定できません。

腕を水平に挙げて取穴しますが、ポイントは筋肉 (三角筋) に力を入れない (緊張させない) ということです。腕を挙げてなにかに腕を預けると、三角筋が緩みます。そのときにできた陥凹部が、ちょうど肩峰の外端部 (やや前方) にできます。それが肩髃です。

力を入れてしまうと、かなり穴処がずれてしまいます。

蕁麻疹に効くと覚える

蕁麻疹に効くと言われますが、これは古典にも記載があります。

癮疹.手臂攣急.筋骨疼痛.
《銅人腧穴針灸圖經》

中風手足不遂,偏風,風瘓,風痿,風病半身不遂,熱風肩中熱,頭不可回顧,肩臂疼痛,臂無力,手不能向頭,攣急,風熱癮疹,顏色枯焦,勞氣洩精,傷寒熱不已,四肢熱,諸癭氣.
《針灸大成》

「癮疹」というのが蕁麻疹のことです。中風 (脳梗塞後遺症) ・痿病 (筋萎縮性側索硬化症など) ・傷寒 (感冒) も挙げられていますね。もちろん肩関節痛にも効きます。

ツボの効果というものは、このような古典を参考にしつつ臨床で実践を踏み効果を確認し、そうやって確定してゆくのですね。

ただし、 “この症状にはこのツボが効く” という考え方では素人の域を出ません。弁証してツボを確定するのですね。それが中医学です。素人の域を出ない考え方では、治療効果もその域を出ません。

蕁麻疹の病理を知る

蕁麻疹の基本的な病理は「表寒裏熱」です。

これに関しては https://sinsindoo.com/archives/baby-atopy.html#魔法瓶 で詳しく説明しましたので、ご一読ください。

肩髃の作用を知る

まず、なぜ肩髃が蕁麻疹に効くのか。

肩髃について、代田文誌先生の「鍼灸治療基礎学」では、甲乙経・類経を参考に取り、
・大腸経
・小腸経
・胆経
・陽蹻脈
が交会する穴処であるとしています。

まず肩髃は、大腸経であることがポイントです。大腸と肺は緊密な関係にあり、肺は皮膚と緊密な関係にあります。よって表寒 (傷寒) に効きます。

また陽蹻脈が流注することも重要です。陽蹻脈の働きには定説がありませんが、ぼくは「気の動きの俊敏さ」を支配すると考えています。衛気がパッと動くのですね。表寒を治すときに非常に重要です。

また、小腸経・胆経が流注していて、心火・肝火の邪熱を取ることもできます。

中医学の基礎から勉強する

表寒裏熱を治すのでうってつけと言えますね。しかし、このような多くの脈気が交会する穴処は、効果の得やすい重要穴ではありますが、一度にたくさんの脈に効くので、意味を理解せずに使ってしまう弊に陥りやすくなります。そうなると、学術を高めることができず、かえって「効く治療」ができなくなります。

表寒を取りたいなら合谷、
裏熱を取りたいなら後渓、

まずこういう基本的な穴処から用い、コツコツと弁証する力をつけていくのが本道です。虚が主になるならば、まず正気を補うツボ (中脘や脾兪など) を用いて、表寒を浮かせるという工夫も臨床では求められます。

蕁麻疹を治すためには、まず表寒を見抜くことができるようになる必要があります。悪寒・頭項強痛・浮脈という証候を覚えて臨床に当てはめることです。そして臨床は、教科書どおりには出てくれない壁にぶつかるものです。そしてその壁を乗り越えるべく、教科書にはない表寒の証候を独自に見つけ、表寒の治療に精通することです。

表寒がクリアできて、それでやっと裏熱の治療ができます。

これだけのプロセスを踏んだ頃には、この肩髃が効くのか効かないのかという判断が、目で見ただけでできるほどに腕が上がっていることでしょう。

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