“当たり前” の薬膳

インフルエンザが流行っているみたいですね。まだ暑いこの時期からの流行は異例のようですが、ぼくの毎日の診療から察する限りでは、外邪 (≒ウイルス) はさほど強いものではなく、むしろ生命力の弱りが主体です。外邪が強いのではなく、我々が弱いというパターンです。

こういう場合、生命力の弱りは食欲の無さとして現れるものです。感染するまでは弱りを感じることもなく、一見元気に見えていたのはカラ元気で、感染することによって正直な姿が現れるのです。つまり、食欲がない。しんどい。動けない。

こういう場合、少なくないのは胃陰虚です。一見元気に見えたのはカラ元気で、土台である陰 (やすらぎ・おちつき・うるおい) がカラカラのカラっぽだったのですね。陰を土台にした陽 (元気さ) でなくてはなりません。発症とは、陰を元の状態にチャージし直す現象です。

胃陰虚の特徴は、果物ならノドを通るということです。 “夏の病人梨より食いつく” と言われますが、まだ暑いこの時期の、梨などのみずみずしい果物は、胃陰虚に非常に効果的です。

ただし、果物では正気 (穀気) は養えないので、白米を食べることが重要です。白粥でもいいでしょう。ちなみに玄米は熱性が強いので逆効果です。

詳しくは下リンクの症例を参考にして下さい。

もっとも正気を補えるのは白米です。生命を船に例えるなら、船体を大きくすると考えましょう。船体は大きければ大きいほどビクともしません。風や波の影響を受けない。つまり寒邪・暑邪・湿邪・風邪・癘気 (ウイルス) の影響を受けないのです。

本で読んだくらいの知識で漢方薬を用いたり、それを食事に混ぜ込むことは奨励しません。薬効とはシビアなもので、船体を左に (陽に) 傾ける力が働いたり、右に (陰に) 傾く力が働いたりします。船体がどの方向にどの程度傾いているかが「見えている」ことが重要で、見えているならば自由自在に船をコントロールできます。しかし「見えていない」ならば恐ろしいことですね。闇雲に用いるべきではありません。

初診の患者さんで、見えていないのに用いている方が多くおられます。これは自分で腹を切り開いて手術するようなものです。西洋医学には手が出ないのに、東洋医学ならやっていいと考えるなら、この医学を軽く見ているのです。

そして、そういうことをやめてもらい、正しい養生を指導して治療を行うと、積年の冷えや症状が一気に取れてしまうことも珍しくありません。純粋な冷えなどほぼなく、温める漢方やお灸を用いて却って邪熱を籠もらし、結果として冷えを強くしている人がたくさんいます。

こんな短文ではよく分かりませんよね。しかしこれは、陰陽寒熱虚実というものがいかに難しいかということの裏返しでもあります。専門家ですらよく分かっていない人が多くいます。生学問で手を出すべきではありません。

誰にでも出来る薬膳こそ大切です。それは、あって当たり前のものであり、常に我々のそばでビッタリと寄り添ってくれているものです。リンクを見ていただくと分かるように、白米も、梨もリンゴも、当たり前のものです。昔から多くの人が食し続けてきた「定番」は、薬膳とするに最も安全なもの言えるでしょう。

変わったことをしたら効果があると思うかも知れませんが、奇をてらうことは正しい道ではありません。真理は当たり前の中にある。中庸のなかの中庸である白米、元氣をもって船体を大きくするこの薬を中心に据える。そして、それを補佐して船体の傾きをコントロールする副食物、寒熱を左右に動かすこの佐薬を、どういう状況でどう運用するかです。

リンクの症例の子供の実例…すなわち、リンゴをとても喜んで食べ、そして白米をおろそかにすることなく、そして食後、さっきまでぐったりしていたのがウソのように元気になった。奇をてらうことなく即効した実例は、状況と運用をうまく映し出しています。

そのリンゴは美味しさとともに白米の通り道を作った。そしてその白米は食べ過ぎることも食べなさ過ぎることもなかった。なぜそうなったのか。理屈ではありません。

ああ、おいしい。

当たり前の食材が、深い味わいをもたらしたからです。
その子の体と心に、ピッタリと寄り添ったからです。

カゼと陰火とリンゴとマスク
2023年9月現在、感染症が流行っている。中医学的にみると陰火が多い。陰火とは正気 (生命力の弱り) によって発熱や炎症などを起こす状態である。症例をあげて検討する。
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